インタビュー第2弾

母から受け継いだ“皆の憩いの場”を守っていく。

画廊喫茶ユトリロ 河野さん

箱根湯本駅のすぐ近くにある、味わい深い喫茶店。


店名の由来でもあるフランスの画家モーリス・ユトリロの油絵をはじめとしたアートに囲まれ、箱根湯本の天然湧水仕立てのコーヒーが味わえるこの店を営む河野さんに、開業時からのあゆみ、店への思いを語っていただきました。


 

地元の方に支えられてきた店

この店は1975年、私が中学生の時に母が開業しました。祖父母が営んでいた瀬戸物屋を改装した建物で、私も小さな頃から馴染んできた土地です。店ができてからは私も母を手伝ったり、コーヒーを飲みながら受験勉強したりと入り浸っていました。


今となってはお客様のほとんどが観光の方ですが、当時は地元の方も多かったですね。とある常連さんは、私がコーヒーを点てるといつも何かしら感想をくれましてね。ときどき「今日のコーヒーはしびれるね」などと言っていたのを覚えてます。どういう意味かはよくわからなかったけれど、刺激的な味と感じたのをそういう言葉で表現したのかも知れません。その方とは仲良くなって、食事に連れて行ってもらったり、忙しい時は店を手伝ってくれたりもしました。もう他界されてしまいましたが。懐かしいですね。他にも家族ぐるみのお付き合いになった方、お客様からいつの間にか従業員になった方、今でも交流のある方もたくさんいます。とにかく当時から、皆の憩いの場でした。

変えたこと、変えなかったこと

 
私は進学で一度箱根を離れましたが、戻ってきて自動車部品メーカーに就職しました。クルマやバイクが大好きですからこの道を志して、図面や機械に向き合う仕事も楽しかったのですが、もともと外交的な性格なので「人と接する仕事も楽しい」という思いもありました。そんな中、母が体調を崩したのもあって、この店で働くことに決めました。
子どもの頃から手伝っているとはいえ、経営に関わるとなると話は変わります。一般的なコーヒーの点て方や機材の使い方は説明書を読んだり練習したりすれば覚えられますが、この店を運営して積み重ねたノウハウ、培ってきた人脈といったものは母の中にしかないものです。だから母が元気なうちに教わっておこうと思いました。
 
といっても母とはけっこう長く一緒に働くことができ、20年近くは2人で店に立っていました。たくさん喧嘩もしました。親子だからというのもあるけれど、お互い遠慮なくモノを言うタイプなのでよくぶつかりました。この店を愛しているが故なのですが、こだわりがあって、どちらも折れないんです。今は私が店主になり、時代の変化に伴って母のやり方から変えた部分もいくつかありますが、基本的なコーヒーの点て方とカレーのベースとなる味は変えていません。お客様や時代に合わせて変えていく味と、残していきたい伝統の味というものがあると思っていますので、そこは両立させたいですね。
 

思い出に残る時間をつくりたい

お客様は遠方から来られる方が大半ですが、嬉しいことにリピーターさんも多くなりました。「箱根に来たら必ず寄るよ」と言ってくれるお客様もおります。私はよくバイクでツーリングをするのですが、出かけた先で仲良くなった方が後日お客様として来てくれることもあります。嬉しい出会い、再会がここにはいつもあるんです。


特別なことをしているわけではありませんが、おいしいものを提供すること、サービスを丁寧にすること、そしてどんなお客様にもこちらから何かしら話しかけることを大事にしています。今はインターネットで口コミが見られる時代ですが「マスターが気さくで優しかった」などと書いてもらえていると嬉しいですね。これからも皆さんの思い出に残るような時間を過ごしてもらいたいと、しみじみ感じております。

年月と共に建物や機材の老朽化も進みますが、できるかぎりメンテナンスしながら、皆の憩いの場を守っていきたいです。
いつまでも皆さんが一息つける、来ればホッとするような場所であり続けたいですね。