はこねOnsen-Helper対談企画

「人生最後の夢」を叶えるお手伝い。
「はこねOnsen-Helper」という新たな働き方

 
「箱根の温泉に、入りたいなあ」
 
そんな願いを誰もが叶えられる世界にしたいという思いで、一歩を踏み出したプロジェクトがあります。
その名も「はこねOnsen-Helper(おんせんヘルパー)。」年齢や障害によって一人で温泉に入ることが難しい方が入浴介助を受け、箱根の湯にゆっくりつかるという夢を実現できるサービスです。
 
 

箱根DMO佐藤(写真左) 初鹿真樹さん(写真右)

ヘルパーを担うのは、神奈川の県西地区で働く医療介護職と箱根の宿泊施設や観光施設などで働く人たち。副業として入浴介助に携わることで、他では感じられないやりがいを見出すことができるといいます。いったいどんな仕事なのでしょう?


今回は、はこねOnsen-Helperの仕掛け人である有限会社足柄リハビリテーションサービス 観光事業部 あしがらベアフット 作業療法士の初鹿真樹さんと、箱根DMOの佐藤正毅が、プロジェクト発足の経緯や仕事の魅力、体験した感想などを語り合いました。

「車いすでは無理」は思い込みだと気付いた

―まずお二人が一緒に取り組みを始めたきっかけについて教えてください。


佐藤 私が旅行関係の民間企業から箱根DMOに出向してすぐ、箱根を誰もが気軽に足を運べる観光地にしようという取り組み「DMOユニバーサルツーリズム」が立ち上がりました。


しかし、もともと箱根にゆかりがなく、福祉の知見もまったくなかった私は「さて、どうしよう?」と。そこで紹介していただいたのが初鹿さんだったんです。


 

初鹿 ユニバーサルツーリズムのお話を佐藤さんから聞いた瞬間「やった!」と声が出ました(笑)。


私は地域のバリアフリーマップの作成などを通じて高齢者や障害者の社会参加を促す活動をしていましたが「観光地のバリアフリー化」は大きなテーマでした。


しかし私には旅行・観光業の知見やつながりがなく、「誰か…!」と求めていたところに現れたのが佐藤さんだったんです。

―そんなお二人が携わって制作された『車いすで巡る箱根旅観光マップ』が評価され、観光地の国際認証団体グリーン・デスティネーションズが2023年に実施した「世界の持続可能な観光地TOP100選」で神奈川県箱根町が「ビジネスとマーケティング部門」1位に選ばれました!
そこから「はこねOnsen-Helper」の立ち上げに至った流れは?
 

佐藤 マップ制作にあたって、実際に車いすユーザーの方と一緒に箱根を観光して回ったんです。それまでは私も「『天下の剣』と呼ばれる箱根を車いすで巡ったり、温泉に入ったりするなんて無理なのでは」と考えていたのですが、それは思い込みだったとわかったんですよね。
 
初鹿 私がリハビリを担当していた方々からも、普段から「箱根の温泉に入りたいな」という声はよく聞いていて。佐藤さんが仰るように箱根には車いすでも楽しめるポテンシャルが十分にあるのですが、介助をする人がいない、介助してほしくてもどこに頼んだらいいかわからない、といった課題が見えて来たのです。
 
佐藤 というわけで私たちは「介助を受けて温泉に入りたい人」「介助をする人」「受け入れる温泉旅館」をつなぐ窓口として「はこねOnsen-Helper」を立ち上げました。介助をする仕事には、箱根の宿泊施設などで働く方および医療や介護の資格を持つ方を対象に副業として携わっていただくことを想定しています。
 

身体が不自由になって初めて持った夢を叶えた

―Onsen-Helperとして働く方には、サービス業に携わる方や医療介護業界の方がいるとのことですが、異業種が交わり合うことで何か効果はありますか?
 
初鹿 それはすごくあると思っていて。例えば私たち医療介護職は、心身ともに対象者に「近い位置」でケアをしています。もちろんそれは職業柄必要なことですが、ホテル勤務の方などを見ていると、お客様に近づきすぎず離れすぎず、絶妙な距離感で接していて。お客様がとても心地よさそうなんですよね。所作ひとつとっても、私たちとはまた異なる素晴らしいおもてなしの姿勢に感銘を受けるばかりです。観光業界の方たち、本当にすごいですよね。
 
佐藤 逆にそれは私も感じていて。接客の経験があっても福祉の知識に乏しいと、例えば車いすのお客様がお見えになった時「かがんで目線を合わせて話すべきか? 立ったままの方がいいのかな?」といったことで迷ってしまう場合があります。誰もが心地よく過ごせる、現場に即したホスピタリティの在り方を、医療介護職の皆さんと活動することで私も学ばせていただきました。Onsen-Helperとして働く方々にも、業界を超えて影響し合い、それぞれの本業にも磨きがかかるといった効果があるのではないかと思っているところです。
 

―そうした方々と共に2024年秋からスタートした「はこねOnsen-Helper」。実際にどんな方が利用されましたか?
 
初鹿 初めてのお客様は、頚髄損傷という重度の障害がある方でした。聞くと、SNSでこのサービスを知り「旅行がしたいな、温泉に入りたい」と初めて奥様に言ったそうなのです。Onsen-Helperとして登録してくれた看護師と私の2人で介助をさせていただきましたが、ご本人が心から喜んでいらっしゃる姿、ご家族の嬉しそうな様子に、本当に胸が熱くなりました。
 
佐藤 その方は身体が不自由になって以来、旅行がしたいなどと思ったことは一度もなかったとお聞きして。私たちのサービスによって夢が生まれ、実現に至ったのだということを感慨深く思いました。
 

―そんな素敵な場面に立ち会えるOnsen-Helperという仕事に携わる魅力は、他にはどんなことがありますか?


初鹿 例えば施設で働く介護職員は、基本的にご利用者様の「日常生活」のケアをさせていただいております。日々繰り返される「日常生活」のケアが「当たり前」のルーティンワークのように感じられてしまうことも少なくありません。


それに対してOnsen-Helperはお客様の「非日常」をお手伝いする仕事。特別な一日に関わらせていただくことを通じて、医療もしくは介護という職業の素晴らしさを再認識できる機会になると思います。

佐藤 毎日仕事をしているとそれが当たり前に感じられてしまう、というのはサービス業にも起こりうることです。


そこでOnsen-Helperを経験して、数十年来の夢を叶える場面に立ち会ったりすれば、自分が携わっている仕事の価値の大きさを改めて感じられますよね。


そうして皆が仕事への誇りを高められれば、結果として箱根ブランドの底上げにもつながっていきます。

最高のホスピタリティで、箱根ブランドをアップデートする

―はこねOnsen-Helperをやってみたい! という方のために、働くまでの流れを教えてください。まったくの未経験でも大丈夫ですか?
 
初鹿 はい、もちろん経験のない方も大歓迎です! Onsen-Helperとして働くことを希望される方には、入浴介助の基本から具体的事例、想定されるリスクなどを温泉入浴介助の先駆者による動画講義で学んでいただきます。その後、実際の温泉施設を利用した実技講習を用意しています。
 
佐藤 まさに私も今回、未経験からチャレンジしまして。入浴介助のやり方だけでなく、お客様との接し方やマインド面までフォローしていただき、ここまで教わったらできそうだ、と思えました。
 
初鹿 実際にお客様の介助をする際には、未経験の方だけでお願いすることはなく、必ず介護や医療のプロとペアになっていただきますので安心してください。お客様の命をお預かりする仕事ですから、緊張感やリスクは伴います。ですが、それを補っても余りある嬉しさがこの仕事にはあることを、Onsen-Helperを始めてから私も改めて感じているところです。この喜びを皆さんにも味わってもらいたいですね。見学だけでも気軽に参加してください!
 
佐藤 これからますます高齢化が進むにつれ、高齢者の旅行ニーズは増えていくことが予想されます。私が旅行業に携わってきた中でも「人生最後の夢」として旅行を挙げる方を多く見てきました。そのお手伝いに日本随一の観光地で携われるOnsen-Helperという仕事には、他にはないやりがいが詰まっていると思います。
 

―最後に、お二人が思い描く箱根の未来をお聞かせください。
 
初鹿 年齢を重ねても、障害があっても、誰もが「行ける場所に行く」のではなく「行きたい場所に行ける」未来が理想です。そして「行きたい場所」に箱根を選んでくださるのであれば、その全ての方を最高のおもてなしでお迎えしたい。そのためにもOnsen-Helperを含めた各取り組みを通じて、箱根ブランドと働く人のホスピタリティをもっと高めていきたいです。
 
佐藤 箱根は日本を代表する温泉地として年間2000万もの観光客を迎え入れている一方で、人口減少といった問題を抱えているのも現状です。最近教わった言葉なのですが「観光客や身体の不自由な方に優しい町は、住民にも優しい町になる」と。例えば車いすでも通りやすいように道を整備すれば、住む人も歩きやすく快適になりますよね。Onsen-Helperを一例とした箱根を楽しみに来る人たちの利便性を向上させる取り組みによって「ずっとここに住みたい!」と思えるまちづくりにも寄与できたらと思います。
 

初鹿 そのためには私たちの力だけではとても足りません。多くの方に関わっていただきたいですよね。


佐藤 そうですね。まずはOnsen-Helperをやってみたいな、という方からのお問合せをお待ちしています!


 

今回おふたりの撮影では、HAKONATURE BASEさんのワークスペース・スタジオをお借りしました!とてもおしゃれで居心地のよい空間で美味しいコーヒーをいただきながら、笑顔がこぼれる撮影となりました。


また、取材を担当されたのはプロのライターである北村朱里さん。柔らかい雰囲気で、取材を受ける方ご自身のすばらしさを存分に引き出すプロフェッショナルです。


ご協力いただいた皆様誠にありがとうございました!


はこワク!編集担当より