勤続10~30年以上が半数。
従業員にもお客様にも愛され続ける会社のヒミツ
ふわっと香る柚子、やわらかな食感と優しい甘さで多くの人に愛される、箱根を代表する銘菓「湯もち」。その製造販売を手がける「有限会社ちもと(以下、ちもと)」は1950(昭和25年)から箱根に根を下ろし、4つの販売店と1つのカフェを運営しています。
伝統を守りながらも新たな美味しさを生み出し続けるこの会社には、従来の枠にとらわれないカタチでいろいろな方が働いているのだとか。
お客様にも従業員にも長年にわたり愛される会社について、3代目となる杉山社長にお話を聞きました。
年齢もバックグラウンドもさまざまな人を受け入れる理由
――ちもとでは何名くらいの方が働いているのですか? 仕事内容や働き方についても教えてください。
杉山 正社員24名、パート・アルバイトが30名、計54名が、菓子の製造・店頭での販売・総務それぞれの業務を担当しています。
学生アルバイトから75歳を超えるベテランまで在籍していて、できるだけ各自のライフステージに合わせられるように柔軟な働き方を採用しています。例えば家事や育児をしながら平日の昼間だけ働きたい、短期間で集中的に稼ぎたい、家を空けられないのでリモートワークがしたいなど、希望はさまざまです。
――年代も働き方も幅広いんですね。そのようにしている理由は何なのでしょうか。
杉山 働いている人たちの年齢層は、お客様の年齢層と同じくらいばらついていた方が良いと思っていて。ここは観光地ですから、子どもからお年寄りまでさまざまな方がいらっしゃいます。どの年代の方が来られても、誰かしらはお客様と歳が近くて同じような感覚で話ができるのは、非常に大事なことだと思うのです。
それから、年齢やバックグラウンドが異なるとそれぞれ得意なこと、苦手なことも違ってきますから、互いにフォローできるようにもなります。実際、電子決済の機械操作に年配の従業員が手間取った時に学生アルバイトが助けたり、若い従業員の子どもが熱を出して帰らなくてはいけない時にベテランのパートがカバーしたり、といったことが日常です。助け合おうと意識するまでもなくそれが「当たり前」の光景になっているのは、当社の特徴かもしれません。多様性とかダイバーシティというとなんだかカッコいい感じになってしまいますが(笑)
社会って本来、そういうものだと思っていて。
――と、おっしゃいますと?
杉山 年齢も性別も障がいの有無も含めて、いろいろな人がいるのが「社会」じゃないですか。であれば、会社もそれに近づけるのが自然だと思うんです。そうすることで、皆と違う人を阻害するとか誰かを責めるといった歪みが生まれず、協力したり助け合ったりという人間本来の良い営みが自然とできるようになっていきます。
一番は「ちもとらしさ」に馴染んでくれること
――ちもとには長く勤めている方が多いようですね。
杉山 一番長いベテランで30年以上、新卒で入って結婚出産を経てパートとして戻ってきた者もいたり、全従業員のうち半数くらいが勤続10年以上といったところです。
――皆さん、この職場が大好きなんですね。その理由はどこにあるのでしょうか。
杉山 前述のようにできるだけ希望の働き方に合わせたり、休暇を取りやすくしたりといったことはしていますが、正直、給与面などは決して他よりすごく良いとは言えません。それでも長くいてくれているのは、みんなでつくっている社内の雰囲気や人間関係の良さがあるからだと思います。
当社はなんというか、全くベタベタしていなくて、どちらかというとドライなんですね。仕事では協力し合うけれど、プライベートのことはお互いあまり知らなかったり。もちろん仲が良い者同士もいますが、それを強要する空気はいっさいなくて。
――個人的な仲の良さではなく仕事というひとつの目的でつながっているから、関係が負担にならずに無理なく長く続くのですね。
そういう組織をつくるために、会社として工夫していることはありますか?
杉山 採用にあたって「ちもとらしさ」に馴染んでいただけるかを第一基準にしている点です。まず、経歴やスキルよりも当社の理念に共感していただけることを大事にしています。そして、採用候補の方にはかならず一日お試しで働いていただくんです。そうすればご本人も私たちもお互いに「一緒にやっていけそうか」がよくわかりますから。私だけでなくいろいろな従業員が接した上で「うん、この方なら馴染んでもらえそうだね!」といって決めるので、働き始めてから現場でミスマッチが発生することもなく、先輩たちも責任持って育てるのです。
さらに多くの仲間と、人としての器を磨ける職場に
――最近、初めて障がい者雇用をされたそうですね。
杉山 小田原市の就労継続支援B型事業所から1名、就職してくれました。雇用にあたっては想像よりハードルが低かったというのが正直な感想です。事業所による研修やフォローアップは徹底されていますし、国からの金銭的な補助もあり、おかげさまでスムーズに働いてもらうことができました。
――従業員の皆さまの反応はいかがでしたか?
杉山 迎える前は若干の戸惑いがあったようですが、すぐにこれまでの新入社員が来たときとまったく変わらない様子で受け入れていました。もともと多様な人たちが共存する組織でしたので、そこに1人が入ってきたところで特別なことではないんですね。
それでいて「障がいのある人と一緒に働く」ことが多くの従業員にとっては初めての経験で、それが自分にもできた! というのは新しい世界を知った喜びや自信になり、心の余裕にもつながっているようです。
――新たな仲間を受け入れることで、人も組織もさらにアップデートされるのですね。
最後に、会社の今後の方向性や想いをお聞かせください。
杉山 外国人、高校生アルバイト、80歳を超える方など、さらに幅広い方に仲間になっていただきたいと思っています。それは単に「多様な従業員がいる」という事実をつくりたいのではなくて、この会社を「本来の社会の在り方」により近づけたいという一点に尽きます。
本来の社会により近い環境に身を置くことで、例えば新卒は若いうちから人間的な器を磨くことができますし、ベテランもまた視野を広げて、偏見を減らしたり、寛容さを持ったり、働きながらにして大事なことを誰もが学べる場になります。
私たちは、従業員を「一日でお菓子を何個生産できる人」のような目の前の利用価値でなく「大切なお菓子を一緒に作り続けてくれる人」という長期的な組織への貢献価値で見ていきたいと思っています。共感してくださる方は、当社のドアをたたいてくれたら嬉しいです。
取材にご協力いただいた杉山社長ありがとうございました!
「会社の在り方」を「社会の在り方」に近づけていくという発想は目から鱗でした。
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