特集
箱根十七湯
さまざまな泉質・効能を誇る「箱根十七湯」。由緒ある温泉で身も心も癒される。
「箱根十七湯」って何?
箱根とは、箱のような外輪山の形から付いた名。その箱の中には美しい湖をはじめ、いくつもの山や川、そしてかつて箱根七湯(湯本・塔之沢・堂ヶ島・宮ノ下・底倉・木賀・芦之湯)の温泉地として知られ、今ではその数17を数える温泉場があるなど、箱根は豊かな自然資源や優れた自然環境に恵まれています。 箱根全山十七湯からは、1日2万5千トンもの温泉が湧いています。その湧出量は、全国5位を誇り、しかも泉質は、アルカリ性単純温泉、食塩泉(ナトリウム-塩化物泉)、石膏泉(カルシウム-硫酸泉)など約20種類に及び、地下1階~地上4階のデパートにたとえることができるほどの大きな温泉地です。高度の高い順に4階に当たるのが「酸性硫酸塩泉」、3階が「重炭酸塩硫酸塩泉」、2階が「塩化物泉」、1階と地階が「塩化物重炭酸塩硫酸塩泉(混合型)」となる温泉です。今では外輪山に向かってより深い温泉が掘削されるようになりました。 日本では古くから温泉地イコール観光地として発展し、観光資源に恵まれた箱根はそのリーダー的役割を果たしてきました。宿泊施設数、収容定員数、宿泊利用人員数のすべてで日本一であることが、それを如実に示しています。
それぞれの温泉にはこんな特徴がある!
箱根湯本・塔ノ沢・畑宿エリア
①湯本温泉 ~箱根温泉の大玄関口~
湯本温泉は十七湯の中で最も古い歴史を持ち、伝承では天平10年(738)の開湯と言われます。江戸時代には源泉が次々に開発され、全国的に有名な温泉場として大いに賑わいました。現在でも源泉数、温泉旅館・ホテルの数、滞在または宿泊する旅客数などが最多で、箱根温泉の中心的存在です。それは小田急ロマンスカーのターミナル、箱根登山鉄道や箱根各エリアのバス乗り換え駅で、どこへ行くにも便利という地理的条件と無関係ではありません。
②塔之沢温泉 ~輝かしい老舗旅館が並ぶ湯の里~
早川渓流沿いの函嶺洞門を抜けると、塔之沢であった─そんな文学的な表現がぴったりの温泉です。老舗旅館の多い閑静な雰囲気が文人たちの想像力を刺激するのでしょうか。塔之沢温泉は、江戸時代から文学や旅行案内によく描かれました。弥次喜多の『東海道中膝栗毛』で有名な十返舎一九も、「湯宿も奇麗風流にて、入湯もおほく…(『箱根江の島鎌倉道中記』)」と書いています。
宮ノ下・小涌谷・大平台エリア
③大平台温泉 ~あじさいのように家庭的な温泉~
急峻な塔之沢と宮ノ下の間にあり、比較的平坦なところから付いた地名が“大平台”。江戸時代は、挽物玩具や盆、箱などの「箱根細工」を作る木工の里として栄えました。ここに宮ノ下から温泉が引かれたのは、昭和26年(1951)の共同湯「姫之場」からです。住民の憩いの場としてスタートした温泉で、家庭的な雰囲気を今に伝えています。その後、大平台でも源泉が掘られました。
④宮ノ下温泉 〜箱根発展の先駆的温泉〜
宮ノ下の地名は、熊野神社のお宮の下に開けたことに由来します。熊野は「ゆうや」とも読み、「湯屋」すなわち温泉の神として古くから信仰されてきました。その宮ノ下温泉に自然湧水が初めて発見されたのは、室町時代の応永5年(1398)です。江戸時代には大名の奥方や豪商などが訪れ、内湯と滝湯(打たせ湯)による湯治を続けました。
⑤堂ヶ島温泉 〜名僧ゆかりの幽玄な秘湯〜
堂ヶ島温泉は、宮ノ下付近の国道1号から早川の渓谷へ下った谷底にあります。江戸時代には5軒あった湯宿も現在は1軒。この温泉は、夢窓国師(1275~1351)が開いたといわれます。臨済宗の黄金時代を築いた国師は、後醍醐天皇や足利尊氏からも信仰を受け、政治や文化に大きな影響を及ぼした名僧です。
⑥木賀温泉 ~将軍たちにゆかりの湯~
木賀温泉の歴史は古く、12世紀末、鎌倉幕府の将軍源頼朝に仕えた木賀善司吉成が、重病を癒したという伝説にまでさかのぼります。江戸時代には箱根七湯の一つに選ばれ、湯本、塔之沢、宮ノ下とともに徳川将軍家への献上湯にも選ばれました。献上湯は、主に妊娠を願う側室の湯沐みに用いられたと言われます。
⑦底倉温泉 ~川底に湧く白い湯の倉~
底倉温泉は、江戸時代から七湯の一つに数えられていました。宮ノ下温泉と隣接し、蛇骨川(じゃこつがわ)に架かる八千代橋の手前を折れて下ります。明治期には、外国人が宮ノ下を好むのに対して、日本人に好まれる温泉として栄えました。岩の割れ目から高温の弱食塩泉と単純温泉が湧出していて、痔疾や淋病、疝気などの治療に効果があったからです。
⑧二ノ平温泉 ~彫刻の森とともに~
二ノ平は、彫刻の森美術館のある温泉地として知られます。神山溶岩流の末端に位置し、強羅と小涌谷の間にはさまれた台地にあります。もとは近隣の温泉場に働く人々の休養の場でしたが、昭和38年(1963)に温泉が湧出して開かれた新しい温泉です。昭和46年(1971)に彫刻の森美術館がオープンすると、登山鉄道の「二ノ平駅」も「彫刻の森駅」と改称。以後、人気のスポットとして知られるようになりました。
⑨小涌谷温泉 ~名所に彩られた小粋な温泉~
小涌谷温泉は、湯煙が立ち上がる“大地獄(大涌谷)”に対して“小地獄”と呼ばれていました。江戸時代に発行された『七湯の枝折』には「地ーめんに熱し巌の間より泥湯玉きりにゆる」などと、地獄に似たさまが描かれています。小涌谷と改名されたのは明治天皇が行幸された明治6年(1873)のこと。以来、小涌谷温泉として本格的に開発が進みました。昭和に入って温泉開発が加速され、孔井の位置によって湯温や泉質の異なる多種の源泉が湧き出しました。
強羅・宮城野エリア
⑩強羅温泉 ~欧米型「温泉療養」の拠点として~
強羅温泉は、大正8年(1919)の箱根登山鉄道の開通で十七湯の仲間入りをした比較的新しい温泉です。それ以前は明治の政財界人や文人の別荘地として栄え、多くの遺構が今も保存されています。当時は早雲山や大涌谷などからの引湯による温泉でしたが、昭和27年(1952)初めて温泉掘削に成功し、以後、数多くの温泉が掘り当てられました。
⑪宮城野温泉 ~古い集落の趣を感じながら~
宮城野温泉は、宮ノ下から木賀を過ぎて少し上った小さな集落の温泉場です。風土記によると、村には萩も多く、気候や風土が歌枕で名高い宮城野(現仙台市)に似ていたからと言われます。ただ温泉の発見は昭和40年(1965)と遅く、それから保養所や寮が建てられるようになりました。箱根最古の碓氷道、碓氷峠に建つ日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の「吾妻はや」の碑、宮城野城の遺構など見どころは豊富な温泉地です。また、宮城野諏訪神社の「湯立獅子舞(7月15日)」は、仙石原の「湯立獅子舞(3月27日)」とともに国の無形民俗文化財に指定されています。
仙石原エリア
⑫仙石原温泉 ~爽やかな高原のリゾート~
仙石原温泉は、標高700m前後の広い草原に開かれた温泉リゾートです。温泉利用は元文元年(1736)、大涌谷の引湯に始まります。現在も、大涌谷(硫黄泉=白濁湯)と姥子(透明湯)の引湯を集中管理して各旅館・ホテルに供給しています。そこには芦ノ湖畔の豊富な地下水も利用されてきました。 大正から昭和にかけて欧米型の避暑地として開発された歴史があり、他の地区に比べて自然がよく保存されているのも仙石原の特徴です。旅館・ホテルや施設などは“自然環境との調和”を優先し、それが仙石原のイメージとして認知されるようになりました。
⑬姥子温泉 ~火山の恵みを身近に感じながら~
日本人ならだれでも知っている童話「金太郎」。姥子の名は、その金太郎を育てた山姥と子(金太郎)の伝説から生まれたとも言われています。伝説では金太郎が目を傷めたとき、山姥が箱根権現のお告げに従ってこの温泉で完治させました。江戸時代(1811)に書かれた『七湯の枝折』にも、「此湯明礬(みょうばん)湯にして専ら眼病によし」と記されています。
芦之湯・芦ノ湖エリア
⑭芦之湯温泉 ~文人墨客に愛された風雅の湯~
芦之湯温泉は、駒ヶ岳の麓に開けた閑静な温泉地です。箱根旧街道(現国道1号)沿いで歴史的な面影を色濃く残し、旧跡も数多く点在しています。その一つ「阿字ヶ池」は、寛文2年(1662)に勝間田清左衛門が湿原を開拓して温泉の基礎を築いた跡です。それ以来、江戸時代を通じて長逗留の湯治客や文人墨客で賑わいました。『七湯枝折』では、「ここの湯は五味(多種)で、箱根の温泉の中でも主(最高)」という意味の賛辞が送られています。
⑮湯の花沢温泉 ~憩いとレジャーの花も咲く~
湯の花沢温泉は、駒ヶ岳東斜面の海抜約950m地点、箱根の温泉十七湯の中では最も高い位置にあります。駒ヶ岳に登れば、西に富士山、南に芦ノ湖、駿河湾、東に相模湾や三浦半島、よく晴れた日には房総半島まで見渡せます。「湯の花沢」の名にふさわしく、自然湧泉が豊富なのも特徴です。明治期には、湯の花(硫黄など温泉の沈殿物)を日本で初めて採取し販売した温泉地であることでも知られます。
⑯蛸川温泉 ~いちばん新しい幻の湯~
蛸川温泉は、十七湯の中でいちばん新しく平成5年(1993)に誕生しました。昭和62年(1987)に駒ヶ岳ロープウェー北側に温泉が噴出。当初は芦ノ湖温泉と共に「元箱根温泉」を構成していたのが、分離独立する形でのデビューでした。蛸川の中心である箱根園は、芦ノ湖畔の箱根神社北側から九頭龍(くずりゅう)神社付近までを含む一大リゾートとして、ホテル(ザ・プリンス箱根芦ノ湖)のほか、さまざまなスポーツやアミューズメント施設も抱えています。
⑰芦ノ湖温泉 ~富士山の見える湖畔の温泉~
昔から箱根では「富士山の見える場所に温泉は湧かない」と言われてきましたが、昭和41年(1966)に湯の花沢温泉から湯を引いて生まれたのが芦ノ湖温泉です。以来、芦ノ湖と富士山という二大ランドマークに、避暑地としての魅力が相まって観光客の心を魅きつけています。13軒ある宿のほとんどから芦ノ湖や富士山の景観を眺めることができ、四季折々の異なる味わいがある温泉地です。